2008-07-02
詩集『ウサギ』より その3
友だちのKちゃんの同意を得て、ここにKちゃんの詩を掲載します。詩集『ウサギ』より
うさぎの心
哀しい 背を 向けて
暗闇の 海を
じっと
見つめていた
2008-07-01
詩集『ウサギ』より その2
友だちのKちゃんの同意を得て、ここにKちゃんの詩を掲載します。詩集『ウサギ』より
うさぎの 心が つかめない
うさぎの 心が さまよっている
さみしい 瞳に 涙を ためて
逃げだした 心を 探す
2008-06-22
詩集『ウサギ』より その1
友だちのKちゃんの同意を得て、Kちゃんの詩をここに掲載します。詩集『ウサギ』より
うさぎが 空を見上げると 満天の星たちが 輝いている
うさぎの瞳には ぼやけてみえる その星たちが
囁きあっている
うさぎには わからない
悲しいとき いつも見上げていた星たちが
輝きを 分け与えてくれた 星たちが
囁きあって 美しさを まして
うさぎには わからない
満天の 星たちが 霞んで見えて
眩しいくらいに 光をます
うさぎの 輝きを 吸いとるように
星たちは 光をます
囁きは 合唱のように
うさぎは 丘の上で いつまでも 星たちを見上げる
2008-06-15
『破片のきらめき』
東京八王子にある精神病院、平川病院造形教室の模様を描いたドキュメンタリー映画。フランスの2008年ヴズール国際アジア映画祭にて、観客賞(ドキュメンタリー映画最優秀賞)受賞。
映画が始めって、すぐにスクリーンに魅入った。
アトリエを主催する安彦講平氏と造形教室に通う患者たちの魂の営みの場がここ造形教室にあるのだ。
映画は、患者さんの私生活までも描き、その生活の有り様を、克明に描き出している。
出かける前に、何度も持ち物をチェックし、鍵がかかっているか何度も確認する男性。
アトリエでは、絵ばかりではなく、詩の朗読、ギター演奏も行われている。
男性のギターの調べに合わせて、詩を朗読する女性。
そのギターの調べは、儚くも美しい。
詩画集を作り、朗読する場面を以て、映画は終わる。
上映後、監督高橋愼二氏からの挨拶と講師の安彦氏とアトリエに集うみなさんと観客とのトーク・セッションが行われた。
アートは決して、癒しでもセラピーでもなく、あくまでも自由な魂を解放する自己表現であり、アウトサイダー・アートとして見てはいけない。
この1時間半弱の映像に、なんと精神の激しくも力強い魂が凝縮されていることか。
まだこの映画は、福井県で上映されたばかりで、今回東京で、2回目の上映が行われた。
自主映画で、今後の興行の見通しもない。
各自治体に働きかけ、この映画が全国で上映されるようになることを望む。
この映画には、何かがある。見るべき価値がある。
心を病む者でなくとも、観る者の魂に訴えかけてくる、力がこの映画にはあると確信している。
特に、病む者、とその周辺の方達に観てもらいたい優れた秀作映画である。
2008-06-08
『闇に光る』-亜紀ちゃんとぼく-part2-15
N700系は、オリオン座の中心に向かう。遠くからオリオン座が見えてくる。
太鼓の型をした黄色く光る星の中、三つの星が横に並んでいる。
N700系は、三つに並んだ兄弟星の真ん中の星に、降り立った。
ステーションの天井には、星図が描かれていた。その星図の中心にオリオン座があった。
ぼくと亜紀ちゃんは、ステーションのインフォメーション・センターで、宿を決めた。
都市部の外れ、ステーションから、タクシーで15分位の場所に建つ、ヴィクトリアン・ホテルに向かった。
ホテルに入ると、大きなロビーがあり、天井はとても高かった。
天井は丸くなっていて、フレスコ画が描かれていた。
フレスコ画は、天使たちが空を舞い、神への賛美を讃えているかのようだった。
ロビーを通り過ぎ、エレベーターへと向かう。
7階の部屋は、空がよくきれいに見える、居心地のよい部屋だった。
ふたりソファに座り込み、冷蔵庫から出したコークを飲みながら、煙草を吸った。
やがて空が暗くなり、ぼくと亜紀ちゃんは、部屋を出て、どこかいいレストランはないかと、フロントで訊いた。
フロントの女性スタッフは、オリオンに来たのなら、1度は行くべき店があると言った。
女性は、オリオンの地図をぼくに渡し、その店をマーカーで印をつけて、店の電話番号を地図の余白に書いてくれた。
ぼくは、その女性に礼を言って、部屋の鍵を女性に預けて、ホテルを出た。
辺りは暗く、ひともまばらで世界はまるで、ぼくと亜紀ちゃんのためにあるかように思えた。
取りあえず、その店の方角に向かって、地図を頼りにふたり手をつなぎながら、歩いていった。
川が流れていた。川岸には電燈が立っていて、夜の景色を川面が美しく映し出していた。
川岸の遊歩道を歩きながら、ぼくは吟遊詩人のよう、ただ思いついた言葉のかけらを詠った。
「今ここに在る君とぼく
何を想わん
在るのは、存在の欠片
求め合うふたつの孤独な魂
ぼくに欠けたところを君が埋めてくれる
幸福とはそんなことを言うのではないだろうか
問われれば、ぼくは答えよう
正しくぼくは、幸福の最中に在り
想うは君のことばかり
心が通い、体が通じ合うこの心地よい感覚
不思議と君の横顔を見やれば
思いのほか、ただ君は微笑んで、口元を上げている
その微笑みはまるでモナリザ
神の造りたもうた微笑を備えた君の横顔に
賛美の言葉もない
ただ感じるまま
思いのまま
君を讃えよ
愛せよ
それがぼくの生きている証し
君にないものをぼくが補い
ぼくに足りない慎みの心を君が支えてくれる
幸福の中、君と歩く川面に映る姿のなんと愛おしいこと
この一瞬に永遠をぼくは捧げる
人生に克つのは君とぼくの愛の証明
いつの日か
その日が来る
その日まで、ぼくはこうやって君と手をつないで、ただ無心に言葉を詠むのだ」
気がつくと、お目当ての店の前に来ていた。
店の名前は、ノワールと言った。
店の前に、小さなガス燈が灯っていた。
鈍色の重い扉を開ける。片手では開かなくて、両手で思いっきり手前に扉を引いた。すると、扉は今までの重さが嘘のように、軽やかに開き、ぼくと亜紀ちゃんを店内に導いた。
中は照明が暗く、店内に客がいるのかも分からない、テーブルも見えなかった。
ぼくと亜紀ちゃんは、しばらく入り口で、目が慣れるのを待たなくてはならなかった。
5分くらい経っただろうか。ようやく目が店の暗さに慣れてきた。
目を細めてよく見ると、店内にはテーブルが五つあった。後、カウンター席が店の右側に並んでいる。
ぼくと亜紀ちゃんは、店の一番奥、右側のテーブルに腰を下ろした。
店内には、カウンター席に客が二人いるだけだった。
カウンターの中にいた黒いパンツに白いシャツを着た、まだ若いおそらく20代だろうと思われる男のひとが、メニュを持ってきた。
「いらっしゃいませ。お決まりになりましたら、お呼びください」
暗い照明がテーブルの上にあったが、メニュを見るには、その照明は暗すぎた。大体、メニュの文字が何語で書かれているのかさえわからなかった。
ぼくは暗がりの中、手を挙げた。すると、どうしてこの暗がりの中、気がつくのか、カウンターの中の男性は、こちらへ歩み寄ってきた。
「ぼくたち、メニュが読めないんです。何かお勧めの料理はありますか」
「では、とっておきに料理をご用意しましょう。楽しみにお待ちください。飲み物は何か召し上がりますか」
「カンパリはありますか」
「はい。ございます」
ぼくは亜紀ちゃんと小声で話し、ぼくはカンパリ・ソーダ、亜紀ちゃんはカンパリ・オレンジを頼むことにした。
男性がカウンターへ戻る。
カウンターの後ろにある酒棚の中から、1本のボトルを取りだす。
タンブラーをふたつカウンターの上に置き、氷を入れる。
タンブラーに、カンパリを注ぎ込む。氷がカンパリの温度に溶けていく。
ひとつのタンブラーに、オレンジ・ジュースを、もうひとつにソーダを注ぎ、マドラーでかき混ぜる。
カウンターの照明に映るふたつのタンブラー・グラスは赤く照らし出されていた。
男性はグラスをふたつ、左手で持ってぼくたちのテーブルへ来る。
「オレンジのお客さまは」
亜紀ちゃんが手を挙げた。
亜紀ちゃんの前に、水滴が滴る橙色のタンブラー・グラスが置かれる。そして、ぼくの前に赤みが沈殿し、上の方は透明に泡立った液体の入ったグラスが置かれた。
男性が去っていくと、ぼくと亜紀ちゃんは、それぞれグラスを手に持ち、グラスを傾け、グラスを交わした。静かな店内に、グラスの触れ合う小さな音が漏れた。
ぼくと亜紀ちゃんは喉が渇いていたから、一気に三分の二位、カンパリを飲み干した。
グラスをテーブルに置き、鼻から大きな息を出した。喉と胃の中が冷たく、また同時に、アルコールのせいか、腹の中が熱く萌えた。
ぼくは胸ポケットから、セブンスターを取り出し、口にくわえた。
亜紀ちゃんがポーチの中から、ライターを取り出し、火をつけてくれた。
「Light My Fire,Thank You」
大きく煙草の煙を腹の奥まで吸い込む。
やっと一息つけた気がした。身体にカンパリと煙草が混じり合い、緊張感を解し、とてもリラックスした気分になった。
一方亜紀ちゃんは、グラスに付着した水滴を右手の人さし指でなぞっている。
指先に水滴がついている。ピンクのマニキュアをした長い爪が淡く桃色に光っていた。
ぼくは、その指先をぼんやりと、煙草をくゆらせながら、愛おし気に眺めていた。亜紀ちゃんの手に触れたかったが、何かそれを躊躇うものがあり、また、拒絶しているようにぼくには感じられた。
重い空気が足元を流れる。ぼくは会話の切っ掛けを失い、ひたすら煙草をくゆらし、紫煙がぼくの上を舞い、空を眺めた。
ふたりの間にこんな重い空気が流れたのは、初めてのことだった。理由はわからない。店の照明の暗さが一層、ふたりの間の雰囲気を重たいものにさせていた。
店内には、小さくピアノ曲が流れていた。耳をこらさなくては聴こえないほど、小さな音だった。
ぼくは耳をすまして、音楽に聴き入った。どこかで聴いたことのある曲だった。沈黙を破り、「この曲なんだったっけ」と切り出した。すると亜紀ちゃんは、虚ろな目で空を見つめながら言った。
「サティのジムノベディ」、そう一言呟くと、また口を貝殻のように閉じた。
ぼくの中には不安が拡がり、今すぐにでも店を出たい気持ちが強まっていた。が、そんなことは勿論口に出して言えなかった。時間の流れがとても遅いものに感じられた。料理はいつまで経っても出てこなかった。大体この店はバーと言った雰囲気で、料理を出す店には思えなかった。
だが男性は、確かに料理を出すと言ったのだ。ぼくはただその言葉を信じて、ただひたすら待つことしかできなかった。
どれくら時間が流れたのだろう。わからない。ただとても長い時間、とっても長くここにいるように思える。腰が痛んだ。ぼくはお尻の位置を変え、足を組み直す。
気がつくと、足の指先が靴の中で丸く縮まっている。ぼくはそれに気づき、指先を伸ばす。が、すぐに指先は縮まってしまう。その繰り返しだった。
料理は結局出てこなかった。
二人いた客は無言で店を出ていく。
いつの間にか、カウンターにいた男性の姿も消えていた。
ぼくは時計をホテルに忘れてきたので、時刻も全く分からなかった。また、店内には窓はひとつなかったので、外の様子もわからなかった。
不安が一層増す。
その時、扉が開かれた。
透明な黄色い光が、扉の隙間から差し込み、ひとりの大柄な人のシルエットが扉の前で佇んでいる。
こちらを見つめているようにも思えたが、錯覚かもしれない。
シルエットは声、男の声だった、を発した。
「待ち人は来たり
我が名を君は既に知る
時間の重さと長さは期待の波
若者よ、躊躇うことはない
今ここに語り部は在りし
栄光を得んとする者は我の手に、誓いの口づけをせむ
ひとはみな、かつて詩人だった
だが、本物の詩人は数多くはいない
齢い長けてなお詩を詠む者のみ
わたしはその者と言葉を交わさむ
立て
来い
恋焦がれた者たち」
そこで男の声は終わり、また、いつの間にか音楽は止んでいた。
沈黙が支配し、闇と微かな光が交差する。
ぼくは男の声に導かれ、夢遊病者のように椅子から立ち上がり、男の方へとふらふらと歩み寄っていった。
つづく